《用語解説》若手社員が学んだ、M&Aとおいしいランチの秘密

登場人物

津名久ハナコ:主人公の一人。新入社員であり、社長からM&Aに関するレポート作成を指示される。
勝瀬ヒデコ:主人公のもう一人。先輩社員であり、経営戦略に詳しい。期待の若手経営コンサルタント。
社長:津名久ハナコたちが所属する会社の経営者であり、経営改善についての知見がある。


お昼休み直前、津名久ハナコは勝瀬ヒデコのデスクにやってきた。

「どうしたの?お腹が空いてるみたいね」と、ヒデコは優しく声をかけた。

「はい、すみません。ちょっとお腹が空いてしまって…」と、ハナコは恥ずかしそうに笑った。

「って、違います!!お腹も空いていますが、社長からM&A(エムアンドエー)についてのレポートを提出するよういわれていて、期限が明日なんです!」頭を抱えた。

「どうせそんなことだと思ったわ。でも、大丈夫。おいしいものを食べながら教えてあげるから」ヒデコは苦笑しながらランチを提案した。

二人は近くのカフェに移動して、M&Aの基礎を勉強することになった。


「M&Aとは、Merger(合併)&Acquisitions(買収)の頭文字を取ったもので、複数の会社をひとつに合併したり、ある会社が他の会社を買うことを意味するの。新しい市場や製品開発、生産拠点などを得ることで、業績の向上を狙うものね。買収される側は、被買収企業(売り手)、買収する側は買収企業(買い手)と呼ばれるのよ。」
と、ヒデコは説明した。

「会社の売り買いってことですね。それって、どんなときに行われるんですか?」

「いろいろな場合があるわね。例えば、市場シェアの拡大のために競合他社と合併する、とか」

「聞いたことがあります」

「あとは、新規市場への参入、生産性の向上、買収対象企業の技術力やブランド力を獲得するために、既にある企業を買うという方法があるわよね」

「ゼロから作り上げるのではなく、既にあるものを買う、という発想ですね」

「そうそう。立場を変えて考えると、買収される企業側が経営課題を抱えていたり資金調達の必要性がある場合などに、M&Aを選択することもあるの」

「なるほど。よくわかりました。あ、でも」
ハナコはメモを取る手を止めて顔を上げた。

「会社って、世の中にめちゃくちゃたくさんあるじゃないですか。どういう基準で売り買いする会社を選ぶんですか?」

「それは、買収企業が目指すビジョンや戦略に合致するかどうか、買収対象企業が買収企業の成長を加速するかどうか、買収企業が買収対象企業の管理をできるかどうかなど、多くの要因があるのよ。それに、買収企業の現在の状況や課題に合わせて、買収対象企業を選ぶこともあるし」

「何事も状況に寄りけりってことなんですね。毎日ランチでサンドウィッチを食べるわけにいかないのと同じだ!」ヒデコには難解な例え話を出すハナコ。漫画なら大汗がでているであろうヒデコを無視して、ハナコは笑顔で質問を投げかけた。

「あ!お腹のすき具合…じゃなかった、企業規模によっても違ったりします?」

ヒデコは気を取り直してにっこりと微笑み、答えた。

「そうね。企業の規模によって、M&Aを選択するケースが違うわね。大企業は、市場シェアを拡大するために行われることが多いけど、中小企業は、人材確保や技術確保のために、M&Aを選択することがあるのよ。」

「ですよね!懐具合によってもランチに何を食べるか違いますもんね!」

「・・・そうね」

二人は、おいしいランチを楽しみながら、M&Aについて熱心に話し合った。時間がたつのを忘れ、話に熱が入っていく。

「M&Aって複雑ですね。私が勉強することは、まだまだたくさんありそうです」とハナコが言った。

ヒデコは、にっこりと微笑んで言った。

「それでも、M&Aは、企業にとって大きなチャンスになりえるのよ。私たちが経営コンサルタントとして、お客様にM&Aを提案する場面が多くなるかもしれないわね。だから、詳しく勉強しておくことをおすすめするわ」

「はい、頑張ります!今日はありがとうございました」


次の日、始業してすぐにハナコは意気揚々と社長のデスクに向かった。

「社長、M&Aについてのレポートを提出いたします!ヒデコさんに教えてもらったカフェがとても素敵だったんです。社長も行ってみて下さい!」と、ハナコはニコニコしながら提出した。

「(カフェ・・・?)」
社長は若干混乱しつつレポートを受け取り、内容を確認した。ハナコが書いた文章は、分かりやすくまとまっていた。

「よくできているね。これからも頑張ってください」と、社長は言った。

ホッとした様子のハナコに、社長は不思議そうに問いかけた。

「でも、津名久さん、なぜレポートにカフェの情報を入れたんですか?M&Aとどう関係があるのでしょう」

ハナコは、思わず笑い声を漏らした。

「すみません、つい余計なことを書いてしまいました。でも、もし社長が一度そのカフェに行かれたら、私のM&Aのレポートと同じくらい感動されると思うんです」

社長は苦笑いしながら、頷いた。

「そうですね。今度、行ってみようかな」

ハナコはスキップでヒデコのデスクに向かった。ヒデコは顔を上げると、
「レポート提出お疲れ様。社長の反応はどうだった?」と尋ねた。

「はい、ヒデコさんのおかげでバッチリでした!ありがとうございます」
ハナコは勢いよくお辞儀をした。

「それはよかったわね。M&Aは経営戦略に欠かせない重要なテーマなのよ。これからもしっかり勉強するようにね」

「ありがとうございます!私もヒデコさんみたいに、困っている後輩にアドバイスできるように頑張ります!」

ハナコは、先輩の指導に心から感謝をするとともに、自身が成長することで会社の成長に貢献することを改めて心に誓ったのであった。